午後二時をまわり、太陽は熱をすこしも弱めることなく照り続けていた。駐車場には団体のお客様を運ぶバスが入ってきては、出ていった。舟着場からも途切れることなくお客様が上陸していた。
 芝生ガーデンの準備は着実に進み、地元の高校生たちが運営するタコ焼き屋も試食品を焼き始めていた。企画から食材の準備、接客、撤収までの一連を十名の高校生が販売営業の実地研修も兼ねて参加する。それもまた、柳川全体を盛り上げていこうとする御花の方針に沿った取り組みだった。
「おう、岡本君、ひさしぶり」
 十メートルも離れた位置から声を張り上げて登場したのは、シニアマネージャーの波場だ。その年の二月、職場体験で御花を訪れた高校生の岡本は、波場の声の周波数にあわせる機敏さで背筋を正して「こんにちは、本日もお世話になります!」と挨拶した。
「いいね、いいね、気合入ってるねえ。タコ焼き、と、あと、なんだっけ」
 屋台の前に置かれた小さな黒板には、〈お好みの具材を入れます・タコ以外もOK!〉とあり、チョコ、チーズ、ウインナー、うずらの卵、そして鰻と、具材一覧が並び記されている。
「おー、どれもうまそうだな。で、おすすめはどれ? チョコ? チーズ? あんこは? おっと、あんこはないか。あんこ入れたら鯛焼きになるか。いや、回転焼きに近いのかな。で、どれ? どれがおすすめ?」
「僕はチーズですね。サルサソースにつけて食べると、かなり美味いです」
「サルサチーズか。あー、ビール、ビールとも相性よさそうだな。でも駄目だぞ、未成年なんだからな」
「僕らにはこれがビールです」
 屋台の内側で岡本は輝くラムネの瓶を掲げて見せた。
「ここは七時までだっけ」と波場が確かめる。
「そうです。ここだけ早めに畳ませてもらって」
「じゃあ夜はお客様として楽しんで! ばっちりもてなすからさあ!」
 言い終わらないうちに波場は踵を返した。岡本の隣でタコ焼きを焼く練習にあたっていた友人が「食べないのかな」とサルサソースをかけた品を手に、あっけにとられていた。
「波場さん!」
 岡本が大声で呼ぶと、波場は振り返りざまに大きく手を振った。いや、そうじゃなくて、と苦笑混じりに岡本が用件を叫ぶ。
「これ、めしあがってください!」
「おう!」
 戻ってきた波場は、「いただきます」と言うやいなや、自家製サルサソースの絡んだチーズタコ焼きを口に放り込んだ。できたてだったが、熱そうな素振りも見せず「んー、うまい、うまいなー」と感心しながら、笹舟をかたどった皿を手に建物の方へ戻っていった。
「忙しそうだね」と感心する友人に、岡本は答えた。
「あれが通常運転なんだよ」

     午後二時をまわり、太陽は熱をすこしも弱めることなく照り続けていた。駐車場には団体のお客様を運ぶバスが入ってきては、出ていった。舟着場からも途切れることなくお客様が上陸していた。
 芝生ガーデンの準備は着実に進み、地元の高校生たちが運営するタコ焼き屋も試食品を焼き始めていた。企画から食材の準備、接客、撤収までの一連を十名の高校生が販売営業の実地研修も兼ねて参加する。それもまた、柳川全体を盛り上げていこうとする御花の方針に沿った取り組みだった。
「おう、岡本君、ひさしぶり」
 十メートルも離れた位置から声を張り上げて登場したのは、シニアマネージャーの波場だ。その年の二月、職場体験で御花を訪れた高校生の岡本は、波場の声の周波数にあわせる機敏さで背筋を正して「こんにちは、本日もお世話になります!」と挨拶した。
「いいね、いいね、気合入ってるねえ。タコ焼き、と、あと、なんだっけ」
 屋台の前に置かれた小さな黒板には、〈お好みの具材を入れます・タコ以外もOK!〉とあり、チョコ、チーズ、ウインナー、うずらの卵、そして鰻と、具材一覧が並び記されている。
「おー、どれもうまそうだな。で、おすすめはどれ? チョコ? チーズ? あんこは? おっと、あんこはないか。あんこ入れたら鯛焼きになるか。いや、回転焼きに近いのかな。で、どれ? どれがおすすめ?」
「僕はチーズですね。サルサソースにつけて食べると、かなり美味いです」
「サルサチーズか。あー、ビール、ビールとも相性よさそうだな。でも駄目だぞ、未成年なんだからな」
「僕らにはこれがビールです」
 屋台の内側で岡本は輝くラムネの瓶を掲げて見せた。
「ここは七時までだっけ」と波場が確かめる。
「そうです。ここだけ早めに畳ませてもらって」
「じゃあ夜はお客様として楽しんで! ばっちりもてなすからさあ!」
 言い終わらないうちに波場は踵を返した。岡本の隣でタコ焼きを焼く練習にあたっていた友人が「食べないのかな」とサルサソースをかけた品を手に、あっけにとられていた。
「波場さん!」
 岡本が大声で呼ぶと、波場は振り返りざまに大きく手を振った。いや、そうじゃなくて、と苦笑混じりに岡本が用件を叫ぶ。
「これ、めしあがってください!」
「おう!」
 戻ってきた波場は、「いただきます」と言うやいなや、自家製サルサソースの絡んだチーズタコ焼きを口に放り込んだ。できたてだったが、熱そうな素振りも見せず「んー、うまい、うまいなー」と感心しながら、笹舟をかたどった皿を手に建物の方へ戻っていった。
「忙しそうだね」と感心する友人に、岡本は答えた。
「あれが通常運転なんだよ」